怪談浮世絵の展覧会『幻想の新宿』を見に行く

炎天下、新宿歴史博物館の所蔵資料展『幻想の新宿』を見に行ってきました。

4月に航空写真展を見学した折、たまたま学芸員の解説がある時間に当たって、それがすごく良かったので今回は狙いすまして行きました。

期待通りのおもしろさでした!

f:id:giovannna:20180723185012j:plain
この記事では、自分なりに見所をご紹介します。

[目次]

企画展『幻想の新宿』の内容をざっくり紹介

会期は2018年6月30日から8月26日。観覧無料。(常設展のみ有料)

公式情報:所蔵資料展 「幻想の新宿 ―月岡芳年 錦絵で読み解く 四谷怪談ー」(6月30日から開催)-新宿歴史博物館

所蔵資料とコピーのパネル展示を合わせて行っています。

第1章:新宿の伝説・伝承

新宿(内藤新宿と神楽町周辺)に伝わる妖怪話や幽霊話を紹介。

正受院には三途の川の渡し守である奪衣婆(だつえば)をまつった像があり、ご利益があるとして人々の信仰を集めたらしい。歌川国芳の手による奪衣婆の絵などを複数展示。

第2章:錦絵で読み解く四谷怪談

歌舞伎の『東海道四谷怪談』を描いた錦絵を多数展示。一部他の美術館から借りた資料のコピーで補われているが、ほとんどは現物の錦絵が展示されている。

歌舞伎で幽霊を表現するためのおどろおどろしい仕掛けをいかに紙面に再現するか、絵師の工夫を見るのが楽しい。お岩様の怨念あふれる姿を描いた絵はド迫力で、お子様が見たら泣き出してしまいそう。 

第3章:幻視者・月岡芳年

最後の浮世絵師と呼ばれる月岡芳年の『新形(しんけい)三十六怪撰』を公開。全36点からなる錦絵を前期後期に分け、半分ずつ展示する。このコレクションは個人の所蔵品を今回のために特別に借用したもので、新宿歴史博物館の所蔵ではないとのこと。

ガラスケースの前列に現物の錦絵が並んでおり、奥の列はコピーパネル。本物には贅を尽くした刷りの技術が結集しており、息をのむほど美しい。

第4章:物語から生まれる幻想

「牡丹灯籠」「番町皿屋敷」など江戸を代表する怪談を描いた錦絵を展示。幽霊や妖怪を描くときの独特のお作法が見られる。例えば幽霊は天井から逆さになって現れ、超自然を表すなど。

ギャラリートークでは、落語家の三遊亭円朝は絵師・月岡芳年と親交があったこと。円朝の創作怪談『真景累ヶ淵』が新聞に載った際、挿画は芳年が手がけたことなどが紹介された。

第5章:それからどうなる?新宿ゆかりの文学者によるこわーい話

小泉八雲、夏目漱石、泉鏡花など新宿にゆかりのある文学者が書いた怪談本などを展示。

八雲の作品を海外に輸出するために制作された「ちりめん本」は、和紙に英文や挿絵を刷った上で細かくちりめんジワを寄せたという代物。シワを寄せることによって挿絵をより濃く、美しく見せる特殊効果があるという。

第6章:こわいもの、あやしいもの、おかしなもの

お子様向けの夏休み企画として、浮世絵に描かれた「つくもがみ」などを紹介。昔の人は古びて使われなくなった道具には精霊が宿ると考え、あるいは妖怪のようなユーモラスな存在として親しんでいた。

目玉はなんと言っても「四谷怪談」

四代目鶴屋南北がいかにしてこの怪談を作り上げたかという解説がおもしろかった。

お岩様は当時四谷左門町に実在した女性で、夫を支えお家を再興した良妻として有名であった人物から、南北が名前だけを借りたのだそうです。またこのお岩様の話とは別に四谷には「鬼女伝説」が伝わっており、自分を裏切った夫をとり殺したとされています。南北はここにさらに『仮名手本忠臣蔵』のエッセンスを追加して話を引き伸ばし、壮大な復讐譚に仕立て上げているのです。

歌舞伎の『東海道四谷怪談』を描いた錦絵には当時の絵画のお約束が盛り込まれ、お岩様の幽霊も足を上に頭を下に逆さまの姿で描かれています。

一方で、月岡芳年が従来のお約束を捨て全く新しい表現に挑んだシリーズ『新形(しんけい)三十六怪撰』にはそういったステレオタイプの演出はありません。一見普通の人物画のように見えて、実は影が異形の姿であったり、盃に映った姿が鬼の顔をしていたり……。


『新形三十六怪撰』に描かれたお岩様は、毒を盛られて醜い顔になる前の姿です。赤子を抱いて寝所でゆったりとくつろいでいます。しかしそこには結末を暗示する不吉な二つのモチーフが潜んでいる。

『新形三十六怪撰 四谷怪談』大屋書房蔵

『新形三十六怪撰 四谷怪談』大屋書房蔵、『大妖怪展』2016年図録より

一つは天井から垂れ下がる緑の帯。端が不自然に持ち上がって宙に浮いています。これは「蛇帯(じゃたい)」という妖怪で、女性の嫉妬心が毒蛇に化身したものだそうです。ここで芳年はお岩様の内なる嫉妬心を描き、毒殺の運命をも暗示しているわけです。

もう一つは赤子の着ている黄色いチャンチャンコ。これは黄八丈と言って『四谷怪談』の中では毒薬と共にお岩様の元に送られるという設定です。つまり、もうこの部屋の中には毒薬があり、お岩様の命が危険に晒されていることを示しています。

このように学芸員の解説を聞きながら一巡すると、大まかな見所がわかりやすく、絵の世界に一気に引き込まれました。

 

解説が終わった後マイペースでもう一巡、二巡と鑑賞しました。

芳年の『新形三十六怪撰』がとにかく良かった! にわかファンとしては、表現が円熟しきった最晩年の芳年がこんなものを描いていたとは知らず、うれしい驚きを感じました。

刷りの技術も凄いんだ、これが。本物とコピーとが隣り合って並べてあると、和紙に1枚1枚手作業で刷り込んだ本物の錦絵の美しさが際立ちます。

一方のコピーパネルはガラスが反射してしまって、絵の良さをゆっくり味わうどころではない。7月24日から後期の展示が始まっています。機会があれば、コピーで見た絵もぜひ本物を拝んでみたいものです。

全体的な感想・お薦めの過ごし方

企画展『幻想の新宿』は無料なのに展示が驚くほど多岐にわたっており、長時間楽しめました。私はまずギャラリートークを30分聞き、その後60分ほどかけてゆっくり見学しました。お腹が空いていなければもっといたかった!

ギャラリートークは美術に詳しくない初心者でもわかるように、短時間でおもしろく解説してくれるのでお薦めです。新宿歴史博物館に行くときは、ぜひ土曜日の13時を狙って行ってください。

 

鑑賞後は2階の図書室にも立ち寄りました。

今回の展示に関連する書籍や史料、美術書が閲覧できるようになっています。大型本、図録などは興味があっても現物にお目にかかる機会がないのでうれしかった。

f:id:giovannna:20180723185010j:plain

f:id:giovannna:20180723185008j:plain

 

『新形三十六怪撰』を収録した横浜市歴史博物館の図録もありました。これはぜひとも入手したい!! 

『歴史×妖×芳年』横浜市歴史博物館

『歴史×妖×芳年』横浜市歴史博物館

『芸術新潮』や『東京人』など雑誌のバックナンバーも揃っており、1日滞在しても飽きなさそうでした。

酷暑の最中、昼間に行動するのはしんどいので、今度行くなら昼食を済ませた上、夕方まで館内でのんびり過ごしたい。

 

新宿歴史博物館について

f:id:giovannna:20180723185011j:plain

  • 所在地:〒160-0008 東京都新宿区三栄町22番地
  • 電話:03-3359-2131
  • 開館時間:9:30~17:30(入館は17:00まで)
  • 休館日:第2・4月曜日(祝日の場合は翌日)但し、全館燻蒸作業日(12月)と年末年始(12/29~1/3)は休館いたします。
  • 観覧料:常設展示一般300円、小・中学生100円、団体20名以上の場合は一般150円、小・中学生50円
  • 特別展については、別途定めます。

新宿歴史博物館公式サイトより

  • 都営新宿線曙橋駅、東京メトロ四谷三丁目駅、JR四ッ谷駅いずれからも徒歩10分以内
  • 会期中は、毎週土曜日の13時より、学芸員が30分ほどかけて展示物を解説する「ギャラリートーク」を行っている。