なにか新しいこと日記

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その夜天使が舞い降りた

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この話は実際にあった出来事を元にしたフィクションです。

 

花のような人

20代を半ばにして、かねて志望していた資格を取得するべく私は資格学校に入学しました。学校にはロッカールームがあって、ロッカーが近い上級生とは自然と顔見知りになります。ある授業では上級生と一緒に課題をこなす科目があり、おかげでほぼ全員の顔と名前を覚えることができました。

中でも親しくなった方がいて、お名前を「あおいさん」と言います。あおいさんはほっそりして儚げな見た目の印象とは裏腹に、人を励ますときには驚くほど力強い言葉を掛けてくれるパワフルな女性です。

ロッカーが近かったので、授業を通じてよく話すようになりました。

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昼休みの終わりになると、あおいさんが廊下を通る姿を毎日のように見かけ、「お昼はいつも1人で行動されているんだな」と気がつきました。教室で弁当を食べたりはしないのでしょう。あんなに素敵な人なのに、友だちはいないのだろうかと疑問に思いました。

 

あるとき友人と2人であおいさんの自宅にお邪魔するになり、その折にさり気なく話題にしてみました。あおいさんは言いました。

「同じクラスに噂話をするのがすごく好きな人たちがいて、お昼休みは噂話やその場にいない人の悪口ばかり。それを聞きたくないから、外に出てしまうの。

イヤな言葉を聞くと、つい心の中に憎しみが湧いてしまう。でもその場にいなければそういうものを感じなくて済むし、休憩時間にリセットされるからまた新しい気持ちで午後の授業に臨めるの」

なるほどな〜。何人かの上級生の顔が浮かびました。

と同時に、あおいさんは一匹狼で格好いいなと思いました。1人でも決してツンケンしているわけではない。挨拶をすれば花のような笑顔を見せてくれ、いつも颯爽と歩いているあおいさん。人が嫌いだから1人でいるんじゃない、人を(あるいは自分を)嫌いになりたくないから1人でいるんだ。そういう人がいたっていい。

私もそうしようと思いました。教室が居心地悪いと感じること、私もあったから。

 

あおいさんの周りにはいつも爽やかな風が吹いているみたい。一緒にいると居心地が良くて、人の気持ちを明るくする人だなーと思いました。そういう人ってたまにいる。とても貴重な人だと思います。

私はすっかりあおいさんが好きになって、卒業の日の朝には別れを惜しみつつ、「また遊びに行ってもいいですか?」と訊きました。

「もちろん! いつでもいらっしゃい」

「今度は1人で行きます」と約束しました。

 

天使か、メンターか

それから数年が経って、お互いに仕事が忙しくたまにしかお会いしていませんが、時折ふっと連絡してみたくなることがあります。

ある冬。体を壊してしまい大学病院で精査しても原因がわからず1人で泣いていたときに、あおいさんから前触れもなく電話がかかってきて、驚かされたことがあります。私の声が聞こえたのかと思った。あおいさんはいつものように明るい声で、電話越しに励ましてくれました。深い思いやりを持った人ならではの温かい言葉が心に沁みました。

 

そういう存在を、もしかして「メンター」と呼ぶのかもしれない。私はあおいさんのこと、人の姿をした天使だと思っています。「私だけの天使が埼玉に住んでいるんだ」って思っている。あおいさんに言ったことはありませんが。

 

2年付き合った彼と今後の話をして、ああ、もうダメだ、とうとう道が分かれてしまった……と思い知った後に、あおいさんにメールをしました。

「ご無沙汰してます。今度、お邪魔してもいいですか? 定休日は何曜日でしたっけ……」

「お久しぶり。◯曜日ならお休みだから、新宿で待ち合わせでも大丈夫ですよ」

「いいんですか! じゃあ、お言葉に甘えます」

あまりにトントンと運んだので、何か察したのかもな〜と思いました。

あおいさんはガラケーしか持っていなくて私は格安通信会社だから長文のメールができず、70文字以内のやり取りしかできません。過去3年ほどろくに連絡もしなかったのに。だからこそ、かな…?

 

新宿に舞い降りた天使

私の仕事終わりに合わせてあおいさんに新宿まで来てもらい、2時間みっちりお話ししました。

どういうふうに話をするか全く考えていなかったけれど、思いつくままに前回会ったときから遡って話していきました。

私がどういうふうに考え、行動したか。どこでピントがズレていたのか、もう少し早く判断できなかったのか?

あおいさんに話しているうちに頭の中が整理されて、「今後どうしたらいいのか? こういうふうに行動してみようと思います」と自分の考えを話してみました。

あおいさんも最近のご自身の経験を話して、それに答えてくれました。

《答え合わせ》のつもりはなかったけど、私の出した現段階でのアイデアとあおいさんの行動指針がピッタリと合ったのにはびっくりしました。

30数年かけて少ない恋愛経験の中でようやっと学んだことが、結婚離婚出産を経験した人生の大先輩であるあおいさんの答えと合致するとは思いもよりませんでした。

 

2時間泣いて、笑って……。「今日お話しできて良かったです!」と心がスッキリしました。

心配顔で話を聞いてくれたあおいさんも、最後には優しい笑顔になって眉間がピカーッと光って見えました。

「今度からもっと早めに連絡してちょうだい。2年もムダにしないで」

「そうします。10代20代のうちは恋愛の魔法に惑わされて右往左往するのも楽しかったんですけど……もう、そういうの疲れました 。しばらくのんびりしたい」

「必ずピッタリの人が現れるものよ。焦らないで、ゆっくり見極めて」

 

あおいさんは出会った頃からずっと私の憧れの女性でしたが、さらに美しさが磨かれて、今回過去最高に笑顔が輝いて見えました。ああ、やっと今穏やかな関係を見つけられたんだな〜と感じました。

人生において「こんなふうになれたらいいな」と目標にできる先輩が近くにいることは幸運なことだと思います。

私はどうしようもない女だけど、河原の石のように歳月に磨かれながら、もっと丸くピカピカに光ることができるかな……。

(了)

 

イラストレーション: DAC氏