[目次]
『少女革命ウテナ』の話をしよう
女子生徒が皆セーラー服を着ている学園で女子の制服を拒否し、一人だけ詰襟にショートパンツの少女がいる。
彼女の名はウテナ。剣を持ち、一人の少女の自由を守るために闘い続ける。
『少女革命ウテナ』第1話より
この人の声を、どうか聴いて欲しい。川上とも子という声優が演じた。
オーディションに来た数多の声優は皆キリッとした声で、まるで宝塚のスターのように凛々しくウテナを演じたと言う。しかし、川上の声はそうではない。おっちょこちょいでおちゃめで、ずっこけた普通の少女の声だ。
ウテナは「美少女戦士」ではない。この作品で革命を起こしたのは、平凡な一人の少女である。そのことに重大な意味がある。
彼女は他の人と何が違っていたのか?
今日は、少女革命ウテナの話をしよう。
あなたと私で、世界は革命できる。そういうアニメの話をしよう。
あらすじ【ネタバレ】
舞台は鳳学園。
ハンサムでまるで王のような風格の鳳理事長が君臨する学園都市だ。
彼の妹が姫宮アンシー。エキゾチックな風貌を持つ美少女である。
鳳学園は不思議な魔法に支配されている。
アンシーは「薔薇の花嫁」として決闘の勝者の自由にされ、自らの意思を持たない。ある者が勝てばその者の恋人となり、また別の者が勝てばその持ち物として自由に扱われる。性的に搾取されても構わない存在、それが鳳学園の「薔薇の花嫁」である。
『少女革命ウテナ』第1話より
この話をファンタジーだと思う? 本当に?
そう、あなたの周りに「薔薇の花嫁」がいないと、果たして言い切れるだろうか?
話を続けよう。
彼女がモノのように扱われることを許さなかったのは、ただ一人。学園に転校してきた少女、天上ウテナだ。
ウテナは王子様に憧れ、自らが「王子様」として気高く生きるために男装をしている。王子様とは、ウテナが幼い日に出会った少年のこと。彼から授けられた指輪に導かれ、ウテナはこの学園にやって来た。
女でありながら「王子様」の心を持つウテナは剣を取り、闘う。自己決定権を持たないアンシーの「自由」を守るために。
ウテナが決闘広場に立つとき、天空から逆さの城が降りてくる。
アンシーは深紅のウェディングドレスに包まれ、決闘の勝者に微笑む。そして裏では兄と通じている。ウテナが恋した兄に。
最終回、ウテナが刃に貫かれるシーンは観る者の心に突き刺さる。裏切られてもなお、アンシーを救うためにウテナは手を差し伸べる。
満身創痍で震えながらアンシーに手を伸ばすウテナの微笑み。
「本当に友だちがいると思ってるやつはバカだよ」
決死の覚悟で決闘広場に向かうウテナへ、仲間の一人が言った。ウテナは明るく答えた。
「知らなかったのか? ボクはバカなんだよ」
その言葉通り、ウテナは宿願を果たす。兄に支配され、意思を失い「救われたい」とも思っていなかったはずのアンシーの心を救ってしまった。
ウテナの肉体は滅び、天空の城は消え、決闘広場はバラバラに打ち砕かれてなくなった。
そうして、アンシーは兄の呪縛から放たれて、初めて自由の身となった。
ウテナが消えた学園で、何事もなかったかのように理事長は言う。「バラの刻印の掟は一からやり直しだ。よろしく頼むよ、アンシー」しかし、意思を取り戻したアンシーは断る。「あなたはこの居心地のいい棺の中で、いつまでも《王子様ごっこ》していてください。でも、私は行かなきゃ」
アンシーは晴れ晴れと明るい顔をして、自らの意思で学園を出ていく。
"潔く カッコよく生きて行こう…
たとえ2人離ればなれになっても…”
”私は世界を変える”
オープニングで奥井雅美が歌う『輪舞曲-revolution』が、最終回のエンディングでは詞のないバージョンで、声高らかにLaLaLa……と歌われる。そのとき、観客はこの歌詞の本当の意味を知る。
ウテナが命を懸けて友だちを救おうとしたとき、世界は革命され、アンシーの心は救われた。
これは性的に搾取され自由を奪われていた女性が、人生を取り戻すまでの物語である。
DV被害者のように自分を被害者とも気づかず、じっと心を消して耐えていた人を救ったのは、一人の女性だった。
彼女は女性でありながら、性別を超えて気高く生きようとした。自分のことを「ボク」と呼びはしたが、トランスジェンダーでもレズビアンでもなかった。
ウテナが《私》に与えたインパクト
この作品は私の少女時代、1997年に放映された。
圧倒的に映像が耽美で、全編に謎解きが散りばめられ、性的なメタファーと剣と薔薇に彩られた世界。監督は『セーラームーン』の幾原邦彦。作中に流れる合唱曲を手がけたのはかつて《演劇実験室・天上桟敷》のメンバーであったJ.A.シーザーである。
中学生だった私は一瞬にしてウテナの世界に魅了されたが、その意味するところは半分も理解していなかったと思う。
20歳を超えてからきちんと観て、やっと意味がつながった。
そのとき私はフェミニストとして目覚めたのだと思う。目覚めてしまえば後戻りはできない道だった。
- 人が人を性的に搾取することを許さないこと。
- 自立して、誰にも寄りかからず生きること。
- ホモソーシャルな愛によって友と助け合う精神。(なおかつ、ホモセクシャルな愛情関係とは分離されていること。)
そういうことが、この作品には描かれている。
この作品で唯一成就した「愛」は他でもない。性が介在しないウテナからアンシーへの「同朋としての愛」だけだった。つまり、ホモソーシャルな愛。
これを「同性愛」として描くことは、もしかして少女向けアニメとしてできなかったのかもしれない。でもそうしなかったからこそ、この作品は唯一無二の輝きを放っていると思う。放送開始から20年経った今でも。
私にとって『少女革命ウテナ』は女性であることの不自由から、人はいかにして解放され得るのかという希望を描いた作品である。
全ての女性はアンシーにもなれるし、ウテナにもなれる。そして解放されたアンシーとして歩いていくこともできるという希望を描いた作品である。
作品案内
1. 2017年7月現在、TVシリーズの配信情報
バンダイチャンネルで、現在全話有料配信されているので、興味を持った方は見て欲しい。第1話は登録不要、無料で試聴できます。
全39話のうち、1~13話は仲間同士で闘う『生徒会編』、14~24話は悪の魅力を描いた『黒薔薇編』、25~学園都市の秘密が暴かれる『鳳暁生編』の3部構成。
各パートそれぞれに魅力があるけれども、後半のエピソードほど、少女向けアニメの限界に挑戦する際どいシーン満載でところどころにシュールギャグを織り込んでいるので、そういうものがお好きな方はぜひトライしてください。
2. 新作コミックストーリー
TVシリーズ放映20周年を記念して、バンダイではどうやらキャラクターグッズを売りたいようである。(言うまでもなく、最近セーラームーングッズで大成功を納めたからでしょうね。)私はグッズには興味ありませんが、キャラクターデザインを手掛けたさいとうちほ先生が新作マンガを発表すると聞いて、楽しみにしています。
本日7月27日発売の『月刊Flowers』に掲載されています。
3. サトウナンキ氏レビュー紹介
なおウテナのレビューとして、出版されたものより遥かに詳細に質の高い解説文を発表している方を見つけたので、合わせてご紹介しておきます。サトウナンキ氏。
こちらはヘルマン・ヘッセの『デミアン』、そして池田理代子の『ベルサイユのばら』へのオマージュとして構成された『ウテナ』世界を読み解いた長文レビューです。
少女革命ウテナ論 デミアン・オスカル・ユングそして賢者の石 : 黄金の仔牛〜サトウナンキBlog
先日検索で見つけて、ざっと3分の1くらい理解したように思いますが、やはり『デミアン』を読まないと入ってこないところがあり、今後の個人的な課題にしたいと思う。
4. パロディ作品
ウテナのOPアニメをパロディにした作品がYouTubeにいろいろと上がっていて、そんなのを観るのもおもしろいです。
最優秀作品賞は、ルパン三世をモチーフにした動画に進呈したい。興味がある方は探してみてください。
5. ディスクと書籍の紹介
20年も前の作品のわりにBlu-rayも出てるし、最近合唱曲のサントラも再び出ているのを見つけて、欲しくなってしまった。
Blu-rayボックス
少女革命ウテナ Blu-ray BOX 上巻【初回限定生産】
- 出版社/メーカー: キングレコード
- 発売日: 2013/01/23
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サントラ
主だったテーマ曲が入っているのはこちら。
- アーティスト: TVサントラ,杉並児童合唱団,奥井雅美,裕未瑠華,上谷麻紀,光宗信吉,幾原邦彦,カラオケ
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本文で紹介した詞のない曲、奥井雅美が歌う『Rose&release』が収録されているのはこちらのアルバム(中古)だけです。
「少女革命ウテナ」サウンドトラックvol.3 体内時計都市オルロイ
- アーティスト: TVサントラ,演劇実験室◎万有引力,奥井雅美,杉並児童合唱団,上谷麻紀,東京混声合唱団,幾原邦彦,光宗信吉,大月俊倫,J.A.シーザー,矢吹俊郎
- 出版社/メーカー: キングレコード
- 発売日: 1998/01/01
- メディア: CD
- 購入: 2人 クリック: 17回
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この世界にハマると、絶対にJ.A.シーザーの合唱曲を口ずさみたくなるはず。
さいとうちほによるコミック版 全5巻(kindle)
何しろキャラデザを手がけたのがさいとう先生なので、絵柄の再現度は120パーセントです。ただし、ストーリがややパラレルになってます。
少女革命ウテナ(1)【期間限定 無料お試し版】 (フラワーコミックス)
- 作者: さいとうちほ,ビーパパス
- 出版社/メーカー: 小学館
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劇場版
なお、劇場版『アドゥレセンス黙示録』はあまりにも百合色が強くセンシュアルで、私は好みません。ウテナはあくまでもプラトニックでなければ、180度意味が変わってくると思います。
「少女革命ウテナ アドゥレセンス黙示録」 | バンダイチャンネル