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手話教室に通っています【初級】

すこし前に『淋しいのはアンタだけじゃない』全3巻(完結)という本を読みました。 「耳鳴り・難聴」について綿密な取材をして描かれたノンフィクション漫画です。この作品がすごく良かったので紹介記事も書きました。

音を「目で見る」体験のワンダー:『淋しいのはアンタだけじゃない』全3巻を読む - なにか新しいこと日記 

 

特に感銘を受けたシーンは1巻の第1話。

聞こえない人は職場でたった一人だけということが多く、一日中話す相手がいない。そこで「シラカバ」という喫茶店に毎週水曜日の夜9時大勢で集まって、手話で会話を楽しんでいたということです。

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『淋しいのはアンタだけじゃない』1巻 第1話より

音のない場面のにぎやかさと人々の表情、笑顔がとても印象的でした。

「私も手話で話してみたい」と思った。

 

調べてみると、あちこちの自治体で手話教室が開かれていることがわかりました。費用は教材費のみ。平日の昼間や仕事帰りの時間帯に合わせて開催されています。(定員あり。応募者多数の場合は抽選となる。)

早速申し込んで春から通い始めました。仕事の時間を少々カットすることになりましたが、そこはまぁ、語学教室に通うようなもんだと割りきりました。

 

ご注意:ここからの話は、私が受けている地域の講習会について紹介するものです。公教育と違って「これが標準」というものはなく、運営方法や講習の内容に地域差があることをご承知の上お読みください。

『てにことばを(初級用)手話テキスト』

公益社団法人東京聴覚障害者総合支援機構・発行『手にことばを(初級用)手話テキスト』

[目次]

1. 授業風景

先生が教壇に立って講義をなさり、助手が教室の後方に立って先生の手話を通訳してくれます。

生徒から質問がある場合、生徒が口で話した内容を助手の手話通訳を通じ先生が回答なさいます。

文字で書くとまどろっこしいようですが、先生と助手の連携がよく取れているのと二人のお人柄や汲み取り能力によって、スムーズに授業は進行しています。

 

先生の手話は大きくわかりやすく、優雅です。先生は「ろう」でありながら口話(こうわ)も達者で、ささやくような音量でお話しなさいます。音声でお話しになる内容とパワーポイントが我々の理解を助けてくれます。

助手さんは聞こえる人で、手話サークルの会員であり東京都に登録のある手話通訳士でもあります。気さくな人柄でみんなが講義を理解しているか、手の形が正しく作れているか、教室全体に目配りしつつ講義をサポートしてくださいます。

 

授業は、毎回

  1. 復習
  2. 新しい単元の学習
  3. 隣の人とペアで手話で話してみる
  4. 何組かが前に出て先生のチェックを受ける

の順に進行します。

2. 初級クラスの内容

「挨拶」をあらわす手話

「挨拶」をあらわす手話

まず挨拶の仕方、自己紹介の仕方を教わりました。

次に「指文字」と言って手の形で50音を表現します。これが難しい! あ、い、う、と順番に習って、次々に繰り出そうとすると手がつりそうになります。

 

手話は、目の前の相手に向けて見せるもの。自分から見えている形と反対側から相手が見る形が表裏になるのがまた難しい。

50音の中には形が酷似しているものがあって混乱します。さらに拗音や長音はジェスチャーによって表現します。50音+αで覚えることがある。

『手にことばを(初級用)手話テキスト』p8より

『手にことばを(初級用)手話テキスト』p8より

例えば、鈴木一郎さんの場合、

鈴、木、イ、チ、ロ、ー

のように6つの形を作って表現します。「鈴」と「木」はそれぞれ手話があります。ファーストネームは指文字で表します。このように一つのことを伝えるのにたくさんの手話を覚える必要があります。

3. 手話教室の開催目的

地域在住の聴覚障害者を支援するボランティア育成が目的です。

初級~上級までクラスを分けて、それぞれのレベルに合った内容を教えています。最終的には手話通訳ができるレベルをめざします。

 

別の曜日には「手話サークル」の集まりがあって、手話教室で学んだ人たちが手話を使って交流しているそうです。(サークルには定員がなく、随時参加可能。会費制。)

単に技術だけを学ぶのではなく、実際に手話を使ってみて交流しないと実用レベルには達しないと言われます。そりゃそうだろうな~と思う。週1回の手話教室に加えて、熱心な人たちはサークルにも参加しています。

4. 手話通訳とは (東京都の場合)

(A) 区の登録手話通訳者:区の選考試験に合格した上、登録した人。区のイベントなどに呼ばれて通訳をする。賃金が支払われる。

(B) 厚生労働省が認める「手話通訳士」:手話通訳技能認定資格に合格した人。名簿が公表されている。

(C) 東京都の手話通訳士:「手話通訳士」の資格を持ち、東京都の試験に合格した上で「東京手話通訳等派遣センター」に登録する。2018年4月現在、780人が登録している。東京都のイベントなどに呼ばれて通訳をする。賃金が支払われる。

  • A→B→Cの順にグレードが上がる。
  • 全国で登録しているBの「手話通訳士」は3607人。
  • 手話通訳の仕事には賃金が支払われるが、多くの場合、移動や待機の時間には賃金が発生しないため充分とは言えない。専業の人は少なく、有償ボランティア的な性質の仕事と言える。
  • この他に社会福祉法人全国手話研修センターが実施する「全国手話検定試験」があり、1級から5級までの各級に分かれている。
  • (この項の情報は、区の講習会で聞いた話を基にまとめた。)

参考サイト手話通訳士名簿 H30.04.16更新 | 社会福祉法人聴力障害者情報文化センター

5. 数か月間通った感想

週1回の教室で習得できる内容は限られています。毎週繰り返し復習するので、授業についていけなくなるということはありません。(メモを取ってはいますが、手話は「動き」を伴うものが多く実習が必要です。)

最初の頃は全く新しい言語を覚えることに対してストレスを感じながら、興味本位で通っていました。しかし徐々に学習にも慣れ、顔見知りも増えてリラックスして参加できるようになりました。なごやかな教室の雰囲気、講師陣の努力によるところも大きいです。

ペアで演習する際には毎回「やった、表現できた!」とシンプルな喜びを感じます。教室に通うのがだんだん楽しくなってきました。

手話の多くはジェスチャーを由来としています。また、口を大きく動かしながら手話をすることによって意味を伝える助けになります。演技力や、見る人への思いやりが問われると思う。

 

初級クラスと言いながら、私のような初心者だけではなく他所で手話を学んだことのある人もいっしょに勉強しています。そういう人は通訳を介さずに直接先生に質問したり、通訳される前に先生の言葉を理解して笑ったりしている。大いに刺激になります。 

6. 私の目標

私は習い事のような感覚で「簡単な挨拶ができる」レベルを目標に通っています。まずは入門編として1年間やってみたい。来年は別の区に引っ越すかもしれないし、仕事の関係もあって継続は難しいと思いますが、また時間ができたときに続きを勉強したいと思います。

ちなみに地域の講習会や手話サークルで習得する以外にも、専門学校に入る、テレビ講座や通信教育で学ぶなどの方法があります。

参考情報:手話を学びたい方々へ | 社会福祉法人聴力障害者情報文化センター

 

私の個人的な考えとして、手話通訳をめざして勉強するのも立派なことですが、それよりも低レベルでいいから、普通の人がちょっとだけボランティア精神を持って「緊急時はジェスチャーで伝えよう」とか「筆談でコミュニケーションしてみよう」って思えることも、広く人の役に立つはず。そういう世の中にしたいと思って手話教室に通っているし、技術的なこと以外で学んだことにも意義があると感じています。 

年間のカリキュラムを修了する頃に、また感想を書きます。