知り合いに80代のマダムがいる。
その方は趣味として編み物を長くやっており、昔は埼玉から新宿のヴォーグ学園まで通って習っていた。編み物のクラスで仲良くなった仲間が数人いて、学校が終わってからもしばらくは近い人の家に順繰りに集まって「編み会」をやっていたらしい。仲間たちはぽつぽつと亡くなり、生き残ったのは2人だけ。もう一人の人とは家が遠いので会う機会はほとんどなくなってしまったそうだ。
マダムはいつも微妙な色合いの素敵なニットをお召しになっている。みんな自分で編んだものだそうだ。
透かし編みっぽいニュアンスカラーのピンクのセットアップだとか、夏も段染めになったノースリーブのインナーをお召しになっていたことがあり、うっすら記憶に残っている。
自分が編み物をするようになったから「もしかして……」と思ったが、そうでなければ手編みとは到底気づかない。目の揃った美しいできばえだ。
自分で作るからサイズも体に合っていてちょうどいい。
マダムは輪針を使わず、みんな棒針で編むらしい。
自分で測って型紙を引き、その中に計算して記号を書き入れる。特にアームホールなんかは型紙と合っているか確認しながらその形に編まないと、はぎ合わせたときに変な形になるだろう。だから型紙通り正確に編む技術が求められる。「そうやって編むと自分にぴったりのサイズに編めるのよ」と言う。
編み込みだとか模様編みなんかはしないで段染めの糸を使ってシンプルな形に編むのがマダムのスタイルだ。
昔は蒲田のユザワヤまで毛糸を買いに行ったが、今は近くにユザワヤができたから、そこで用が済む。段染めのモヘアが好きだが、最近はあまり見かけないそうだ。
編み物を始めるときに棒針のセットを買ったから、ずーっとそれで編んでいる。
「竹の針は長く使えるけど、だんだん号数の数字が消えて見えなくなるわね。玉のところに自分で書いたけど、その字も小さくて見えなくなってきたわ」と言うので、
「ゲージをはかる定規に小さい穴をたくさん開けたのがあって、そこに棒針を突っ込んで号数を見るらしいですよ。ユザワヤで買えると思います」と教えて差し上げた。
「一番使うのは、4,5,6号ね。今までに編んだものの残り糸がたくさんあるから、引き揃えにして使い切るように考えて編んでるの。友だちになにか作ってあげると、みんなよく覚えていて『これこれをもらったわ』とか言うんだけど、私のほうはなにをあげたか忘れてるの」
「並太」を編むなら、4,5,6があれば大体足りるということらしい。あるいは引き揃えにして細いのを何本かまとめて編むこともある。
ゲージを取るとき、自分で編んだのがゆるかったり、逆にきつかったりしたら、編み方を変えるんじゃなく、教科書通りに針の号数を変える。編み方を変えると手加減がおかしくなって裏と表が均等に編めなくなったりするから、針を変えるほうがいいそうだ。
ということは……私なんか並太を編むのに、知らないで7号を買っちゃったけど、最初は4,5,6辺りをセットで買ったほうが良かったんだな。
4,5,6でいろいろ編んでみて、自分の手がゆるいかキツイかわかった上で輪針を買うほうが良かったのかもしれない。
メリヤス編みなら5〜6だし、ゴム編みは4〜5のどちらかで編める。たぶん、そういうことだと思う。
マダムとお会いするたび、いろんな話、編み物の話を聞けるのが楽しみだ。