なにか新しいこと日記

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絶交の話

事実をもとにしていますが人物の名前や出来事の細部はフィクションです。

友人ののぞみさんから思いがけない話を聞いた。
10数年前、資格予備校に通っていた頃の同級生でいまだに交流が続いている数少ない友人のうちの1人だ。

「ゆうちゃん、ちえちゃんとは卒業後も何年か同じ勉強会に通っていたんだけど、随分前に会わなくなっちゃったんだよね」
「そうだったの」
「あるとき、ゆうちゃんからすごいキツイことを言われて……」
「エッ、ゆうちゃんが!? のぞみさんがゆうちゃんにキツイことを言ったんじゃなくて、その逆なの?」
「そうなのよ」
「それは意外だわ……ゆうちゃんに一体なにを言われたの? あ、でも、言いたくなかったら別に言わなくていいよ」
「それが細かいことはもう覚えてないんだけど、7〜8年くらい前……」
「ということは、のぞみさんが××に勤めてた頃だね」
「そう。なにをどういうふうに言われたかは全然覚えてないんだけど、そのとき、ちえちゃんもいて3人で飲んでたときに、ゆうちゃんに言われたことで号泣して『もうやめる、やめる』って泣きながら言ったの」
「それはそのときの職場を辞めるってこと?」
「そうじゃなくて……」
「えっ、まさか◯◯の仕事を辞めるってこと?」
「そうなのよ」

驚いた。

「それは……ゆうちゃんのことだから間違ったことは言ってなくて正論だったんでしょ。でもさ、正論で人を追い詰めたらダメだよね。そんなの友だちじゃないじゃん。友だちだったらどんなに親しくても絶対に言ったらいけないことがあるよ。私だって、のぞみさんが××に勤めてたときは『早く辞めたらいいのに』とか心の中では思ったけど、本人ががんばって働いてるのにそれは言えない、言っちゃいけないことじゃない。とんだブラック企業だったけど別に反社とか犯罪に関わってるってわけでもないし普通の会社だからね。ゆうちゃんて怖いね。正論で急に人の急所をぶっ刺してくるような、そんな人だったんだ……」
「ゆうちゃんも『私なんで今日こんなにキツイこと言っちゃうんだろう、ごめんね、ごめんね』って言ってたし、その後年賀状をくれてそこにも『あのときはごめんね』って書いてあったりしたんだけど、私、返事を出せなかった」
「ゆうちゃんていい人だし、プロとしても誠実な、立派な人だよ。でもさ、プロとして理想の姿を作り上げているために絶対に人に本心は見せないで『壁』を作ってたよね。周りにいる子たちもみんなそうだった。だからなんだか気味が悪いし、私は『友だちになれない』って思ってたよ。それでいざ、本音がポロッと出たら、だれよりもキツイことを言ってグサグサ正論で刺してきたわけね!」

のぞみさんには悪いが、本人の前でゲラゲラ笑ってしまった。

「友だちでいたかったら、絶対に言っちゃいけないってことあるよ。怖いね。ずっと本音を隠して生きてるから、いざ本音が出たらそこまで友だちを追いつめて泣かせるなんて。そんなことしたら関係性が壊れちゃうでしょ」
「私、もう、ゆうちゃんに会うのが怖くなっちゃって……。年賀状をもらってもなんて書いたらいいかわからないし、返事は出さなかったの。それきり」
「そっかー。やっぱり、友だちだからって超えちゃいけないラインてあるよね。よっぽど危ない、命に関わるとか、『そっち行ったらダメだ!』っていうときは関係が壊れてでも手を引っ張って止めなきゃいけないってこと、あるかもしれないけど。それ以外は友だちなら黙って見守るしかないんじゃないの。結局、のぞみさん、仕事やめてないわけだしね。ウケる! やめられるわけないじゃん、40手前で前の仕事も辞めて全部捨てて、この仕事に懸けてるんだからさぁ」

私も若い頃はものを知らないから、友だちにも散々余計なことを言ったりしたもんだけど、仕事とか、配偶者とか、人生の大問題に友だちごときが軽々しく口を出すべきではない。友だちというのは遠くからそっと見守るくらいがせいぜいなんだ、無力なもんだって、今はそう思う。

友だちやめるか、仕事辞めるかだったら、そりゃあ友だちやめるよね!
簡単に縁が切れてしまうものだからこそ、せっかくできた友だちは大切にしたい。

 

それにしてもゆうちゃんとのぞみさんは今も親しくしているもんだとばかり思っていたのに……そうじゃなかったなんて。
それも、その出来事から何年も経って過去の出来事として消化できたから話してくれたんだろう。

 

友だちとの適切な距離って難しい。
のぞみさんとは今より近づき過ぎず、付かず離れずの距離を保ってこのまま仲良くしてもらえるといいなって思った。