花見が主目的の旅でしたが、ついでに足を伸ばして観光名所の「斜陽館」に行ってきたので、写真を振り返りながら紹介していきます。
なぜ、斜陽館を訪れたか
伊藤潤二先生のマンガ『人間失格』を手に取ったら、細部の設定まで緻密に描き起こされていることに驚きました。この再現度からして伊藤先生は太宰の大ファンなんだろうし、斜陽館にも足を運んだはず。作品がすごく良かったので、私も太宰の生きた足跡を辿ってみたくなりました。
実際に訪れた後に読み返してみたら、伊藤先生が描く主人公・葉蔵の実家は斜陽館そのものでした。
斜陽館では太宰治の生家を保存公開するだけでなく、太宰にまつわる資料を集め展示するコーナーを設けています。(資料のコーナーのみ撮影禁止。他は撮影可能)
そこで家族写真を見たら、兄たちがかしこまっているのにマンガで見た通り太宰だけがニヤニヤとおどけて笑っていました。
小説の結末と太宰の最期を思って、悲しい気持ちになった。
マニアなら隅々まで見学して興奮するのでしょうけれど、私は『人間失格』を読んだばかりの「にわか読者」なので、家屋を中心に見てその広さと豪華さを堪能しました。
斜陽館までのアクセス
弘前駅からJRに乗り、五所川原へ。この先は津軽線というディーゼルの列車に乗って、半島を北上します。
私が乗ったときは二両編成で、一般乗客は1両目に。団体客が乗車する2両目に添乗員が同乗して観光案内をしていました。その音声がなぜか1両目にも放送されて、私も道すがら耳を傾けました。
津軽訛りの女性のツアーガイドが上手に観光案内をしてくれて、楽しかった。途中の嘉瀬(かせ)駅は歌手・吉幾三さんの出身地。この駅から吉幾三さんは「おら東京さ行くだ」と出発されたそうです。さらに、私の目的地である斜陽館は以前は旅館として営業しており、吉幾三さんはここで披露宴を開いたとか……。
ツアーのお客じゃないのにガイダンスを聞かせてもらって、得した気分でした。
なお、電車の本数が少ないので時間帯によってはとんでもなく待ち時間が発生します。斜陽館のすぐそばに「太宰治疎開の家」という別の観光スポットがありましたが、私は後ろ髪引かれつつ、こちらはカットして弘前に帰りました。
和洋折衷の大豪邸を見学した
太宰の父は貴族院の議員。つまり、国会議員です。現在の価値にして7億円の費用をかけて建設されたという自宅は、それは広いお屋敷でした。
もちろん大きいんだろうとは思ったけれど、私のような庶民の想像を遥かに超えた豪邸でした。まさか、本州の北の最果てにこんな大豪邸を建てるなんて……恐れ入った!
一階は襖を外せば大広間になるという座敷。洋風の階段は三方向に上がれるようになって、踊り場からの通路は女中部屋へと続いていました。ホグワーツみたいな大階段。
二階は和室、洋室、応接室と部屋数がとにかく多く、それぞれに目一杯意匠を凝らしています。
この部屋は太宰の母の居室であったと言われ、太宰ら兄弟はよくこの部屋に集まって遊んでいたそうです。右から三枚目の襖に「斜陽」の文字があり、太宰はこの漢詩を見慣れていたことから、作品のタイトルとして採用したのかもしれません。『斜陽』がベストセラーになった頃、この館は人手にわたり「斜陽館」という名の旅館になったそうです。(実際の斜陽館にあった案内札の説明より抜粋)
庭も立派でした。マンガでは、ここで幼い日の葉蔵が……と思い、渋い気持ちになりました。(原作には、どこが虐待の現場だったかという言及はありません。)
終わりに
百聞は一見に如かず。いかに伊藤先生の描画が真に迫っていても、私の想像力ではここまでの規模の邸宅は想像できなかった。
このような家に生まれながら、父も母もどこか遠い存在として家庭の温かさと無縁に育った太宰の孤独に、思いを馳せました。
マンガ『人間失格』をきっかけとして太宰の原作に触れ、短かった生涯を知るにつれ、私小説というジャンルのおもしろさに引き込まれています。完成されたこのすばらしい小説を基に、大胆にアレンジしてホラー作品に仕立て上げた伊藤先生の筆力もまたすごいと思う。
伊藤先生の『人間失格』3巻・完結編は2018年7月30日発売予定。首を長〜くして、待っています。