なにか新しいこと日記

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星を頼りに、自由をめざして

ある日、タイムラインに流れてきた動画を何気なく開いてみました。『ココッチィ』の梨子(id:rico_note)さんのRTでした。

 


北朝鮮から、自由を求めて - One Young World

 チマチョゴリを着た女性が英語でスピーチする動画です。こみ上げる涙をこらえながら、切々と彼女は語ります。

これから話すことは自分のためにではなく、物言えぬ祖国の人たちの代わりに話すのだと。

若き脱北者としてこの女性は顔を晒し、堂々とスピーチしています。まなざしや態度、言葉の選び方、話の組み立て。どれをとっても年齢に似合わぬ圧倒的な知性と強靭な意志力を感じさせる人です。

私は、この7分間の短い動画に心を揺すぶられました。

 

北朝鮮については通り一遍のことしか知りません。脱北者についても時々報道を目にすることはあるけれど、身の安全のために顔を隠し音声を変えて匿名で話しているVTRの断片だけ。私には関係のない話だとスルーしてきました。しかし、自分よりずっと若い人がこのように危険も顧みず「世界に伝えたい」と決意を持って話しているのを聞いたら、もはや無視はできなくなりました。

すぐお隣の国の出来事です。南北を二つに分けた戦争にわが国も加担しているのだし、その前の戦争は言うに及ばず。そうした歴史の結果として今北朝鮮の人たちは圧政に苦しんでおり、命がけで国を逃れようとする人もいる。

そうしてやっと国を出たとしても、今度は人身売買の商品として扱われ尊厳を踏みにじられていたなんて……。

今まで知らずに来たことを恥じて、この演説者について調べてみました。

 

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パク・ヨンミさん、1993年生まれ。現在はニューヨークを拠点に人権活動を行っているそうです。

私が観た動画は2014年にアイルランドで開かれた国際会議One Young World Summit でのスピーチでした。

BuzzFeedにスピーチの全文翻訳が載っていましたので、テキストで読みたい方はこちらをご覧ください。

「北朝鮮の現実は想像を絶していた」女性脱北者の3年前のスピーチが注目される

 

彼女の生きてきた歴史と国境を越えた過酷な旅路について手記が出版されていることを知り、読んでみました。読み始めたら引き込まれてしまい、2日で読み終えました。

生きるための選択 ―少女は13歳のとき、脱北することを決意して川を渡った

生きるための選択 ―少女は13歳のとき、脱北することを決意して川を渡った

 

『生きるための選択』パク・ヨンミ著

2016年 辰巳出版

こちらはパクさんが英語で書いた著書を邦訳したものです。スピーチ同様に筋立てが明快で、スラスラ読める。これが祖国にいるときはろくに教育も受けられずに育った22歳の文章とは到底思えません。

 

パクさんは韓国に渡ってから猛勉強をして中学・高校の学歴認定試験に通ります。学校が用意したカリキュラムに飽き足らず、大量の本を読みこなしながらたった18か月で12年の遅れを取り戻したそうです。

読めば読むほど、考えが深まり、視野が広くなり、感じかたも豊かになるのがわかった。韓国には、私の知らなかったたくさんの語彙があり、世界を表現する言葉が増えれば、複雑なことを考える能力もより向上する。

第三部 韓国 「貪欲な心」より

「言葉を知る」とはその言葉が内包する概念を理解すること。自由のない国、個人の権利が認められない北朝鮮においては一生知り得ないであろう言葉も多々あったと言います。

私は日本に生まれふんだんに教育を受ける機会に浴しながら、この人ほどよくものを考え、表現する努力をしてきただろうかと考えてしまいました。

乾いた砂地に水がしみ込むように、パクさんが貪欲に知識を吸収する様は圧巻です。

 

パクさんの父は、親友から「岩に生える草のような男」と評された人。これは北朝鮮のことわざで「どんな状況でも機知に富み、へこたれない人物」という意味だそうです。そしてパクさんの母は「幸せになるためには、どんなに貧しくても人に与えなければならない」「人に何かを与えられるなら、自分の人生には価値がある」と娘たちに教えました。

このような両親の下に育って、パクさんの潜在的な能力も人格も磨かれたのでしょう。公教育には千金の価値がある。しかし、人間を育てるのはそれだけではないと思わされます。

 

国際会議でのスピーチで一躍有名になった彼女は手記を著すにあたり、母や姉と話し合って、初めて人身売買の被害に遭った過去を公表することにしたそうです。

「自分自身が過去と向きあうことができなくて、北朝鮮の真実に向きあえ、中国に逃げて人身売買ブローカーの手に落ち、レイプされている北朝鮮女性の真実に向きあえとどうして人に言えるだろう」

「解釈しがたい出来事を説明のつくような物語に組み立てることが、その記憶を乗り越える唯一の方法なのだと思う」

彼女はこのように表現しています。

 

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私がブログを書き続けている理由もこれに近いのかもしれない。彼女が経験した出来事とは次元が違うけれど、やはり私も自分が生きるために日々物語をしているのだと思う。

苦心して言葉を編み出すことによって初めて気がつくことがある。そのとき、ああまた一つ、小さな山を越えられたんだって思う。

本当のことを書かなくては意味がないんだ……。

人生のダークサイド、最も暗い闇の部分に光を当てなければ。

そのように思います。

 

どうか、想像してみてください。15歳の少女が満天の星空の下、凍てつく砂漠を渡って行く姿を……。

 

この本は、日本で公教育を受ける若い人たちに読んで欲しいと思う。あるいはこれから何事かを表現しようとする人たちに。あるいは、北朝鮮で起きていることを知りたいと願う全ての人に。

星を頼りに、自由をめざして中国からモンゴルまでの国境を越えた少女の話です。

生きるための選択 ―少女は13歳のとき、脱北することを決意して川を渡った