ジョヴァンナです。こんにちは!
2018年3月11日に新宿牛込町・経王寺で開かれた東京慰霊祭に参加してきました。
このイベントは東日本大震災のあった2011年から毎年開かれているもので、宗教宗派に関わらず誰でも参加できます。お寺の本堂で行われる読経、朗読、コンサートを通じ、死者を追悼・鎮魂するためのイベントです。
2018年3月11日(日)ピアノコンサート「会いたい」のお知らせ : 田口ランディ Official Blog
私は今年初めて参加しました。
コンサートってじっとしていなきゃいけないし、長時間身体的に拘束されるのが苦痛で自ら進んでまでは行かない方です。このイベントは出入り自由ということなので、「読経と、田口ランディさんの朗読を聞いたら帰ろう。体調と相談で演奏もちょっとぐらい聞けたらいいな」ぐらいの軽い気持ちで参加しました。
ところがランディさん朗読中の上畑正和さんの伴奏があまりにすばらしく、その後のプログラムが気になって夜の部まで残ることに。そして、上畑さんの音楽聞きたさに最後まで残ってコンサートを楽しんできました。
どんな様子だったのかご紹介していきます。
1. 声明・読経
私はスタートから出遅れ、読経の終盤に経王寺に到着しました。
住職・互井観章さんのお経も、お話もよく理解できるいいお話でした。
お寺のお堂で大音声のお経を聞くのはコンサートと似ています。お坊様の声によって空間ごと心身が清められるようでした。心がしーんとして、居合わせた人たちと共に静粛に、ただ座ってお経を聞いていました。
2. 田口ランディ トーク&朗読
次に田口ランディさんの登場です。
先日5時間に及ぶ講演会でお会いしたばかりのランディさん。
講演会も楽しかったけれど、私にとってはむしろこのイベントの方が本命。一体どんなことをなさるのか……。なんの先入観もなく、参加しました。
この日のランディさんは黒い着物をお召しで、ショートヘアに眼鏡がキリッとして講演会のときとはまた違う印象でした。素敵だった。
「この後すぐに石牟礼道子さんの追悼講演会に呼ばれており講演しなきゃならない。重圧を感じています」と。20代の頃2年間関わっていた劇団で石牟礼さんの『苦界浄土』が上演され、それをどんなふうにお感じになったかということを、体験を交えてお話しなさいました。
そして、石牟礼さんの講演録『潮の呼ぶ声』から朗読を。
経王寺は都会ながら道に面した小高い丘の上にあって、よく光が差し込む場所です。夕日に照らされランディさんが朗読する姿が眩しかった。
上畑さんの伴奏もなんとも美しく。ご自身の作曲された作品、もしくは即興音楽なのでしょう。音楽に疎い私でもいたく感動し、その後の上畑さんのピアノソロまで残って聞いていくことにしました。
3. 音楽慰霊・サラウンド上演 by上畑正和
音の波をたゆたうように心地よく穏やかな時間が流れていきました。
鎮魂と慰霊のための演奏だからでしょうか。これまでに聞いたどんなコンサートよりも、心安らかにいつまでも聞いていられるような音楽でした。
その後お堂に設置された7つのスピーカーから、サラウンドの具合を計算して上畑さんが作曲した特別の音楽をお聞きしました。作曲家本人の解説つきで部屋じゅう四方八方で鳴り響く音楽を味わい、楽しかったです。
これを聞いたら帰ろう……と思っていたのですが、上畑さんが自ら重ね合わせた音楽のサラウンドでこれだけ面白いのだから、もう1人のアーティスト・ウォン・ウィンツァンさんと競演したら一体どうなるんだろう。最後にまたランディさんが合流して朗読することになっていたので「せっかくなら3人のセッションも聞いてみたい」と思い、最後まで残ることにしました。
当日はジャケットにスカートを着ていったのですが、会場の性質上、休憩時間には引き戸が開けっぱなしになって外気が入ってくるため、足元が冷えました。
次行くならば暖かい服装で、お尻の下に敷くものも持っていきます。そのぐらい冷えましたし、4時間座りっぱなしは私の体には応えました。
4. ウォン・ウィンツァン 上畑正和演奏
年に一度、ここでしか顔を合わせない2人。リハーサルも特にありません。完全なる即興セッションで、あれだけ息が合うのは天才なんでしょうか。それともプロのアーティストってそういうもの?
ランディさんは今回に限り3月11日がお誕生日だという石牟礼さんの追悼公演に参加しており、不在の中でしばし2人のセッションが行われました。また、ウォンさんの友人で社会活動家のナカムラミカコさん(漢字不明)という方が、ステージに上がって詩の朗読と南相馬のお話をしてくださいました。
ランディさんは20時過ぎに戻られました。上畑さんがサラウンドスピーカーを操作し、ランディさんが話す言葉が周囲のスピーカーを順繰りに渡ってこだまします。これは、不思議な効果でした。
ランディさんはサラウンドの効果を巧みに利用し、つぶやくように緩急をつけて言葉を重ね、詩の朗読が始まりました。(このとき、ランディさんは手元も何も見ていない。即興だと思います。)そして2人の伴奏が低く高く重なり、えもいわれぬ言葉と音楽の響きが会場を包みました。
暗いお堂にスポットライトと燭台の灯に照らし出される演者と、観音様と……。中央に立つランディさんのプレイは、神がかっていました。
会いたい。
もう会えない人にもう一度会いたい。
詩のクライマックスでは、すすり泣く人の声が聞こえてきました。私ももう会えない人のことを思い浮かべながら聞きました。
私は被災者ではない。親しい人が被災したわけでもない。なのに、なぜこんなにもここでの声や音楽が心に響くのだろう。
それはやはり、あの震災によって私も心を切られているからです。見知らぬ人たちであっても、自分と地続きの場所で大勢の人が暴力的に波にさらわれ、命を奪われた事実は大きい。当時は言いようがないほどショックを受けましたし、その後何か月もぼーっとして虚無感に苛まれました。
たまたまその年に、資格試験という「どうしても通らなければならない門」があったから、私は、勉強に打ち込むことで精神の均衡を保つことができたように思います。
しかしながら、心の痛みは瘢痕となり、いつまでも引き攣れていました。
ランディさんのサイトで「アノニマス・エイド」のコンセプトを知ったときに、ああ、おんなじ気持ちの人が他にも大勢いるのだと知った。
弔いとは、死者への祈りとは、生きている者を救うためにあるのだと思います。
自分が救われたいから、祈るのです。鎮魂や慰霊というのは死者のことだけを言うのでなく、生者の魂であり心の慰めをも指していると思う。
耳から入ってくる振動と共に魂までもが震えるようでした。
瘢痕は消えなかったとして、ひどく引き攣れなければいい。どこか悲しみを持ったままでも、穏やかに生きていければそれでいい。
すばらしいイベントでした。
5. 私の参加メモ
当日は13:30開場。18時頃までは席に余裕がありました。3人でセッションする前になって大勢の人が詰めかけ、満席状態となりました。
会場には、背もたれ付きの低いイスが用意されています。膝や腰の悪い方は長時間の参加はつらいかもしれない。お尻に敷くもの(タオルなど)を用意したり、貼るカイロなど準備して行ったほうが安心です。また、戸口のそばは寒いです。長ズボンを履いてしっかりと暖かい服装で行った方がいいと思います。
コンサートの合間に休憩時間が各30分ほどあります。終了時刻が遅いので、夕方外に出て軽食をすれば良かった。近所にサイゼリヤがありました。
お寺のトイレ(男女別)が開放され、お茶のおもてなしもいただきました。心尽くしの接待に感謝して、物販コーナーでわずかですが買い物させていただきました。
スケジュールは途中ずれることはありましたが、ほぼ定刻通り21時に終了しました。
6. 経王寺について
1958年に開かれたという由緒ある日蓮宗のお寺です。
住職・互井観章さんはイベントがお好きなようで、いただいたパンフレットに様々なイベントの案内が挟み込まれていました。どれも、面白そう!
- ワークショップ 仏像でナイト:全8回 木曜日19:00-21:00開催(予約制)
- ワークショップ お経を読む:全8回 金曜日19:00-21:00開催(予約制)
- トークショー 法話日和:全4回 土曜日15:00-17:00(予約不要)
- 経王寺 一日修行:5/6,11/17(予約制)
- 秘仏 大黒天御開帳:全6回 60日ごとの甲子の日8:00-16:00
住職自らが編集発行している『ハスのカホリ』というコミュニティマガジンをいただいて読みました。内容充実で、読み応えがありました。2018年春号の目玉は葬送ジャーナリスト・碑文谷創さんとの対談です。
碑文谷さんから寄贈された宗教・葬送・民俗学・死生学の書籍は本堂の一角に図書館コーナーを設けて、貸し出しをおこなっているそうです。住職の蔵書や檀家さんからの寄贈書も含め、全部で1500冊以上の立派な図書館コーナーになっていました。次回訪れた際は、近くに寄ってどんな本があるのかをゆっくり見てみたいと思います。
7. 東京慰霊祭について
イベントの発案者は作家の田口ランディさん。どのような主旨で開かれているかはランディさんのサイトをご覧ください。
2018年3月11日(日)ピアノコンサート「会いたい」のお知らせ : 田口ランディ Official Blog
毎年、経王寺・互井観章さんの全面協力によって3月11日に開かれています。コンサートが開けちゃうお寺の本堂の設備がスゴイ!(本堂は撮影禁止のため、写真はありません。)
出演者情報
ウォン・ウィンツァンさん:サトワミュージック♪ ウォン・ウィンツァン Homepage
上畑正和さん:上畑正和オフィシャルサイト
加藤貞寿さん:SITAR PLAYER 加藤貞寿
シタール奏者・加藤さんの演奏を聞き逃してしまったので、いずれまた別の機会に聞いてみたいと思います。